令和7年5月、行政書士法の一部改正が国会で可決。
令和8年1月の施行とされました。
ではこの改正で、何が変わるのか?
目的から使命に
行政書士法第1条の目的条文が使命に変わります。
現行法では、
第1条(目的)
この法律は、行政書士の制度を定め、その業務の適性を図ることにより、行政に関する手続きの円滑な実施に寄与するとともに国民の利便に資し、もって国民の権利利益の実施に資することを目的とする。
改正後は、
第1条(行政書士の使命)
行政書士は、その業務を通じて、行政に関する手続きの円滑な実施に寄与するとともに国民の利便に資し、もって国民の権利利益の実施に資することを使命とする。
この改正で印象的には、条文がスッキリしつつも「使命」という文言により洗練された感じがします。
行政書士という国家資格者として、責任の重大さを実感する次第です。
職責規定が挿入
これまでの第1条の2は業務規定でしたが、これが第1条の3に移行し、
第1条の2を職責規定としました。
第1条の2(職責)
行政書士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない。
2 行政書士は、その業務を行うに当たつては、デジタル社会の進展に踏まえ、情報通信技術の活用その他の取組を通じて、国民の利便の向上及び当該業務の改善進歩を図るように務めなければならない。
この中で注目すべきは「デジタル社会の進展に踏まえ」という文言です。
士業者の中でも「デジタル社会」という言葉が行政書士にのみ使われていることを思うと、
時代とともに行政書士も進化をする必要性があり、
国民と行政の架け橋としての役割にも、大きな期待が寄せられていることが伺えます。
特定行政書士の業務拡大
こちらが今回の改正の目玉とも言える内容になります。
改正前は、
第1条の3
二 前条の規定により行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に関する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。
改正後は、
第1条の4
二 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に関する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。
この違い、お分かりでしょうか?
これまで、特定行政書士の業務は「行政書士が作成した書類に関する不服申し立て」に留まりましたが、
改正により「行政書士が作成することができる書類に関する不服申し立て」と業務の範囲が拡大しました。
ここで思うことは、まさに「ぺんはチカラなり」、言葉の妙ということでしょうか。
「した」と「できる」という、ちょっとした言葉の違いで、
業務範囲は大きく変わるということが分かります。
業務の制限規定
この法改正により、非行政書士が行政書士の業務を行うことを明確に禁止しています。
改正前は、
第19条(業務の制限)
行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第1条の2に規定する業務を行うことができない。
改正後は、
第19条(業務の制限)
行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第1条の3に規定する業務を行うことができない。
ここで重要なことは、「名目によるかを問わず」ということです。
今までも、行政書士以外の人が何らかの商品や自らのサービスを提供するために、
行政書士の独占業務である書類作成を行ったりした事例がありますが、
今回の改正によりいかなる名目によるかを問わず、ダメなものはダメと、
条文によって明確化されたことになります。
両罰規定の適用を拡大
両罰規定とは、違反した個人のみならず、その個人の所属する法人にも罰則が及ぶことを言います。
今回はその両罰規定の適用が拡大されました。
改正前は、
第23条の3
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前条第一号の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して同条の刑を科する。
改正後は、
第23条の3
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第21条の2、第22条の4、第23条第2項又は前条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。
これまでは、調査記録簿の記載等のみであったものが、
今後は、業務の制限、名称の使用制限、帳簿の備付及び保存、立ち入り検査も対象となります。
まとめ
このように、行政書士の使命を明確にするとともに、
特定行政書士の業務範囲の拡大や非行政書士の行政書士業務禁止など、
今回の行政書士法の一部改正は、デジタル社会に対応していく中で、
我々行政書士が担っていく役割は誠に大きいと実感します。
改めて、行政書士倫理綱領の前文にある
「行政書士は、国民と行政とのきずなとして、国民の生活向上と
社会の繁栄進歩に貢献することを使命とする」を嚙み締めました。